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(んー? なんだー? 酔っているせいか?、、、空耳か?)
神蔵は酔った頭をちょっと傾けながら、その頭を軽くポンポンと叩いた。
そのとき、彼はふと足元に目をやった。
平たい石の水溜まりの隅に居る有田焼の蛙の置物が、また、何か、、、もの言いたげな様子で彼を見上げているのである。
(まさか!...この蛙じゃないだろうな?)
もの言わぬ置物の蛙の目が、水に濡れているからなのか、、、何かうるうると涙を流しているようにも見え始めた。
そのとき___魔が差したのか___彼の心に妙な考えが浮かんできた。
(“おい!秀人!”)
彼の頭の中で小悪魔がささやき始めた。
(”その蛙はお前のものだ。持って帰っていいぞ!”)
(えっ!でも、これは店のものだろう?)
(”かまうものか、どうせこんな不用心な店だ。蛙の置物1つ持っていっても誰も気が付きゃしないって!”)
小悪魔はニタニタと笑い始めた。
(......)
神蔵は迷い始めていた。
(...この蛙が『連れてって』と言ったんだよな?...たしか...)
彼は何とか蛙を持ち去るための理由付けをしようと試みた...そして...
黒い罪悪感が頭をよぎったが、、、酔った勢いで、スッと蛙の置物に手を伸ばすと、それを掴み、スーツの上着の右ポケットの中に入れてしまった...
神蔵は悪いことをした後ろめたさか、そそくさとその場を立ち去り、元来た路地を引き返し、シャッターの白いドアを開けて、再度、駅の構内に入った___
******
___「皇子~、皇子~、この電車は最終電車です。お降り遅れのないようご注意ください-」
電車の車掌の声が響き、神蔵はハッと目を開けた。
(アレッ?! 皇子駅?、、、降りなきゃ!)
彼は酔った頭ながらも、急いでショルダーバッグを掴んで電車のドアから飛び出た。
ホームにはたくさんの人が居り、皆一様に疲れた様子で改札口に向かっていた。
(あれっ? 俺はさっき、終電で終点の紅羽岩河に居たんじゃなかったっけ?...変だな?夢でも見てたのかな?)
酔った頭を軽く叩きながら、彼は自動改札を抜けると、駅前の商店街を抜けて、自宅へと歩みを進めていった。
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