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バスタブにお湯は張らずに、彼は熱いシャワーを浴びて済ました。
「ふぅーっ」
短パンとTシャツを着た彼は、頭をタオルでゴシゴシ擦りながら、思わず一瞬、風呂上りのビールを飲もうかと考えてしまったが...さすがに飲みすぎていたので、その考えはすぐに押し流され、キッチンにある小さな冷蔵庫から1.5ℓの天然水のペットボトルを取り出し、ガラスのコップに注いでぐびぐびと飲み干した。
八畳の部屋の真ん中には小さな座卓と小さな二人掛け用ソファがあり、窓際にはやや大きめなベッドが置いてあった。
液晶テレビの対面には、大きめの本棚と衣装ダンスがあり、その右横のベッド側には、こじんまりとしたキャスター付き折り畳み机と椅子があり、机の上にはノートPCが載っていた。
彼はテレビを点けて、少しの間、テレビを上の空で見ながら、横の蛙の置物をボーッと眺めていたが...
(明日も朝9時から会議だから、、、もう寝るか...)
彼はテレビを消すと、ベッドの上に転がり、少しの間、スマフォでメールやLINEをチェックしていたが、すぐに部屋の明かりをリモコンで消し、そのまま掛け布団をかぶって、5分ほどで眠りに落ちた___
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これは、夢の中だろうか?___
紅羽岩河駅の地下にあった両側が古い日本家屋の細い路地を、彼は歩いていた。
ただし、シトシトと雨が降っており、周囲はやけに暗い。
路地のつきあたりを左に曲がると、右手奥には[有田亭]の看板の店、
その店の入り口には___
赤い唐傘を差し、シックな袴姿の若い女が立っており、そこだけスポットライトが当たっているかのごとくぼやっと明るく照らされていた。
女は濡れたようにしっとりとした長い黒髪で、目は切れ長の一重、赤い唇は薄く横に長かった...が、とにかく美人であることに疑いはなかった。
「あ、あの」
神蔵は思い切って女に話しかけた。
「あなたは、ここの店の方ですか?」
女はわずかに喜んだ様子で、笑みを浮かべた。
「いいえ。わたしは、この店の女将ではありません...でも、神蔵さん。ようこそ、いらっしゃいました」
神蔵はその返事にギョッとした。
「僕の名前を知っているって、、、あなたは誰なんですか?」
「わたしの名前は、燦宮 影花といいます...これから、よろしくお願いします。神蔵 秀人さん」
「え...よろしくというと何を?」
神蔵は面食らっていた。
「まずは...お願いがあります! あなたが持ち帰った有田焼の蛙にどうか口づけをしてください!」
美女の燦宮は、突然、とんでもないことを言い出した。
「えっ!僕が持ち帰ったことを知っているんですか!?...ごめんなさい!すぐに返します!...でも。なんで口づけを?」
神蔵は更に驚いてしまった。
「それは、あなたが蛙の置物を持ち帰ったことに対する罰です!」
燦宮はそう言い放った後、妖しげに微笑むのであった。
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