瞳をそらさないで

9/9
73人が本棚に入れています
本棚に追加
/9ページ
「周りを見ていないのは、ヨーコさんのほうだ」 「わたしの、ほう?」 「そうだ。――俺はヨーコさんのことを、たぶんヨーコさん以上に見て、知っている」  そして彼は、瞳に宿った鋭い光を、ふいに穏やかなやわらかい光へと変化させた。  大人の色気が漂う甘やかな笑みを口もとへ刻んで、わたしの瞳をのぞきこむ。 「背の高さなんて気にすることない。うつむかずに姿勢を正したほうが、ヨーコさんのスタイルの良さが際立つよ。仕事中の真面目な顔も、今の恥じらう顔も、どちらも俺の好みだ。そのギャップが可愛いよね」  わたしは、一気に赤面する。  恥ずかしいほどに、頬が火照ってきた。  ――背のコンプレックスも、ばれているんだ……。  それだけ、ずっとわたしを見ていたってこと?  もしかして、周りを見ていなかったのは、わたしのほう?  そんなわたしの気持ちがわかったのか、彼は笑みを深くする。  両手でわたしの顔の横に手をついた。そして気がつけば、わたしの脚のあいだに彼の片脚が割りこんでいて、身体全体で逃げ場をなくしている。  そのまま、そっと顔を傾けながら近づけると、魅惑的な低い声でささやいた。 「さあ、ヨーコさん。今度はヨーコさんの番だよ」 「――え?」 「俺の上っ面だけじゃなく、内面まで知って欲しいんだ」 「――でも」 「ねえ、ヨーコさん。目をそらさずに、俺を見て……」  気がつけば、もう逃げられない。  この状況からも。  彼からも……。 FIN
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!