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気がついたら俺は君のしなやかな腕を掴んでいた。
力を入れずともその腕はあっさりと動き、俺と向き合う形になった。
君は顔を背ける間もなく、俺と目が合う。
驚いた。
君は今にも泣き出しそうで、少しでもその頬に触れたら壊れてしまいそうな顔をしていた。
その顔は無理なんて1ミリもしていなかった。
見たことの無いくらいに無防備で、俺の知っている強がりな君はどこにもいなかった。
そんな君を俺は堪らず抱きしめていた。
柔らかい君は壊れてしまいそうだった。
手を回した背中から、君が驚いているのが分かった。
突き放されると思ったが、君はただ俺の名前を消えそうな声で一度呼んだだけだった。
なぁ、失恋した女子が綺麗になるって知ってるか
何を言おうか分からなくなって出た言葉がそれだった。
君は僕の胸の中でふふっと笑った。
じゃあ私は綺麗になれるんだ?
君が喋るとくすぐったかった。
まぁ、多分ね と俺は君を解放した。
解放された君は、そこは頷くだけでいいのに と笑った。
鼻が少しだけ赤くなっていたが、いつもの君に戻っていた。
君が胸の中にいたのは、本当に少しの間だった。
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