赤鼻のトナカイ

10/11
前へ
/11ページ
次へ
 ケーキの箱を受け取らず、鼻歌を歌いながら帰ったおじさんために、わたしはひとつ、ケーキの箱を脇にのける。  それからしばらくして、ぽつぽつと売れていき、10時の閉店間際に、ようやく最後のひとつが売れた。 「千絵美ちゃん、終了しようか」  店長が声をかけてきたけれど。  問題は、お金だけ払ってケーキを持って帰らなかったおじさんの分だけだ。  ――どうしよう? 「酔っぱらった会社員のケーキか。きっと奥さんに取りに来させる気だったんだろうけれど、うまく奥さんに伝わっていなくて、もう取りに来ないんじゃないかなぁ」  そう言った店長も、困った顔になる。 「まあ、お金も受け取ったし、明日まで店の冷蔵庫に入れておくか」  そして、店長がケーキの箱を持ち、店内へと引き返す。  わたしも、道に出していたテーブルを、店内へ運びこもうと片づけはじめた。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!

43人が本棚に入れています
本棚に追加