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そんな水島くんは、わたしのバイト先であるフーズストアが近所にあるせいか、たびたび姿を見せた。
彼だと気づいてからは、わたしの視界によく入るようになったせいか、前よりも見かける頻度があがった気さえする。
レジを通すときに、買い物かごを持ってわたしの前へ立つ彼は、驚くほど背が伸びていた。
見おろしてくる彼の顔を、正面から見ることができないわたしは、いつもうつむいたまま、レジを打つ。
けれど、店内へ入ってきてから買い物をしているあいだの彼を、こっそりと見つめていることが、わたしのバイト先での楽しみのひとつとなっていた。
中学のころより落ちついた雰囲気になっている。
少し長めの髪が滑らかな線を描く頬にかかり、昔にはなかった艶やかな色気を醸しだしている。
「千絵美さん千絵美さん、また今日も彼が来ていますねぇ」
「そうだね。家の買い物の手伝いをしているなんて、いい人だよね」
「千絵美さんに会いに来ているんですってば」
すっかり彼の顔を常連と認識した鳥羽ちゃんは、わたしの心の中を見抜いたように、彼の姿を目にするたびに声をかけてくる。
しだいにわたしも、その会話に乗って楽しむ余裕もできていた。
レジ係とお客さんという立場が崩れることがないくらい、まったく、お互いに目さえ合わさないのに。
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