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とっぷりと日が暮れたあとも、唇をとがらせながら、しばらくわたしはクリスマスケーキを売り続ける。
目の前を通り過ぎるのは、幸せそうなカップルたち。
――いいなぁ。
なんて考えていたら。
「よぅ! ねえちゃん。沈んだ顔をしてどうした!」
なんて、大きな声をかけられた。
慌てて、うつむき加減になっていた顔をあげると、目の前にはアルコールが入り、すっかりご機嫌になったおじさんが、真っ赤な顔で、よろよろと手をあげていた。
「お、ねえちゃんはケーキが売れずにしょんぼりか。そうかそうか! それならおじさんがケーキを買ってやろう!」
大きな声でそういうと、ケーキの値段となる2千円を、おもむろに財布の中から取りだす。
「あ、ありがとうございます」
ケーキが売れたことで、わたしは丁寧にお金を受け取り、代わりにケーキをつめた箱を手渡そうとするけれど。
あまりにも酔っぱらったおじさんは、非常に手もとと足もとが、おぼつかなかった。
これは、家に持って帰るまでに落とすか、あるいは、箱の中でケーキは片寄っちゃうだろうなと想像したとたんに。
おじさんもわかったのだろうか、満面の笑みを浮かべながら告げた。
「いや、悪い悪い。ちょっと預かっといてくれ。奥さんに取りに来させるから!」
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