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ジプシー
9月半ばの、あたたかな陽射しが気持ちのよい朝だった。
俺は早い時間から、まだクラスメートの姿がない4階の教室の窓際にいた。
窓枠に両腕を添えてもたれ、太陽の光にあたりながら、眼鏡越しに登校中の生徒たちをぼんやりと見下ろす。
親譲りとなる真っ黒の髪と瞳の俺は、地味で目立たない容姿といえる。高くない身長と着痩せする体型で、他人からはひ弱に見られがちだ。その印象を最大限に利用し、俺はわざと周りには病弱だと思わせている。
実際に学校を休むこともあるが、成績はトップクラスだ。校内での生活態度も気をつけているので教師の受けもよい。他人が嫌がる面倒な雑務をこなす学級委員長もしている。
ただ、クラスメートとの交流は、悪くはないが良くもなかった。
こちらが、他人とのあいだに壁を作っているせいもある。
だが、それ以上にクラスメートを微妙に近寄りがたくさせているのは、俺の父親が陰陽師で俺自身も変な術を使うらしいという噂が、中学のときから流れているせいだろう。
陰陽師。
昨今では漫画や映画で取りあげられるせいか、意外と知っていて興味を持つ者は多い。
だが、実際には、陰陽師と友人になりたいわけではないらしい。
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