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「その顔、そなたも聞いたのであろう?」
義母のほうへ数歩進み、ドレスの横で両手のひらを彼女へ見せながら、わたしはうつむいてひざを軽く折る。
そんなわたしの挨拶を睨みつけるようにしながら、義母はそう口にした。
わたしは顔をあげる。
義母のその瞳には、隠す気のない、いかにも忌々しいという表情が浮かんでいた。
「十年も経ったいまごろ、あの者が戻ってきた。口では王位に興味のないようなことを言っておきながら、どうやら惜しくなったとみえる」
そこで義母は上半身を前に傾け、わたしの顔を、下からすくい上げるような視線で眺めて、言葉を続けた。
「そなたは、あの者が国に戻ってきて、わらわが暗殺しやすくなったとでも思っているのであろう? とんでもない! どんなに強い者でも争いに参加しなければ、ただの名もない役立たず。だが、本気で争いの渦中に入ってくるとなれば、その者へ支持する味方が集結し秩序ある軍隊となる。いままでなかった防衛が強くなり、よけいにこちらは手も足も出なくなるのだ。だからこそ、あの者が王位に興味がないと嘯き、心にもないことを口にして異世界へいるあいだに抹殺しておきたかったというのに」
義母は、また深く椅子へ座りなおす。
ねめつける視線から逃れたわたしは、静かに息をもらした。
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