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「亡き者にと送り込んだ刺客はもちろん、ただの偵察にと向かわせた者さえ、ここ数年は誰ひとりとして生きて戻って来ぬ。あの者が従えている年寄りが名のある兵ゆえ、返り討ちに遭っているのかと思うていたが、あの者自身が剣術の腕をあげている様子。あの女の血をひいて気味の悪い力を持っているうえに、まったく腹立たしいこと」
ようやく義母は、その場に佇むわたしが苛立たしいとばかりに、部屋の中ほどにある石造りのどっしりとした丸いテーブルと、そのそばの柔らかい布をはった小振りの椅子へ、片手を振って示す。
許しを得たわたしは、ゆっくりと歩み寄り、椅子に腰をおろした。
義母は、わたしが座ると同時に話を続けた。
「たしかにこの国は武力をもってなりたっておる。だが、頭脳と剣術、体術をもっての統治であって、異種族の怪しげな力など必要としておらぬ。この国が、そのような異質の者に支配されるなど考えられぬわ」
そして義母は、わたしがここへ来ると必ず話題となる事柄へと移っていった。
「わらわも、もうひとり、ふたり、子が欲しかったものだが、王があのように戦好きゆえ遠征ばかりで、なかなか次の子が授からなんだ。ならばと、ひとり息子のあの子に王の血を継ぐ子をと思うたが――そなたに子が見込めぬのなら、ほかに第二、第三の妃を持てば良いものを……。まったく我が子ながら、ふぬけ者よのう。わらわがいくら綺麗どころや身分ある他の国の王女を連れてきても見向きもせぬ。のう、早く孫の顔が見たいものよのう」
扇で口もとを隠しながら、いつものように義母は言葉を続けた。
わたしも、いつものように無表情に徹しながらも、おとなしく耳をかたむけるそぶりを見せる。
そして頭の中で、義父となる国王から、なにかのタイミングでふたりきりになったときに交わした会話を思い浮かべた。
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