カ=リナ

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 勇猛にして果敢、死をも恐れぬと噂される国王は、闘いから離れたときは、意外に好感の持てる、ざっくばらんな男だった。  そして、かなりのおしゃべりであった。 「そなたの夫である我が息子と私は、性質が似ていない親子と思うであろう? すべてのものは力で奪う私だが、それでもなかなか手に入らなかったものがあってな。それが、ガ=リュウの母親だった」  その日、わたしは中庭の芝生の上で横座り、日向ぼっこを楽しんでいた。  ひょっこりと現れ、少年のように屈託のない笑顔を見せながら、驚くわたしの横に腰をおろした王は、いきなりこのような話をはじめた。  そのとき、まだ五歳だったにもかかわらず、彼女の天使のような愛らしさに、当時十五であった私は一目惚れをしたのだ。  ちょうど成人の儀と重なるときだった私は、彼女に結婚を申しこんだ。  当然、ほかの者にとられないようにという意味で手もとに引き寄せるだけであり、彼女が成長するまで待つ気でいた。  さすがに幼い子どもには手をださんよ。  ところがあっさりと断られた。  彼女が断った理由が、神聖かつ数少ないヴェナスカディアの一族の血を引いているということではなかった。  生まれつき身体の弱い彼女は、自分は長く生きられないであろうから、すでに即位の決まっていた私に、後継ぎを生せず迷惑をかける。  また、国としても第一王妃がすぐに死すれば、迷惑をかけることとなるうえ、私に不要な悲しみをもたらすからということだった。  ならばと、私は当時の神官からすすめられていた政略結婚をし、ほどなく子をもうけた。  カ=リナ、そなたの夫だ。
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