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暗闇に目が慣れてきたころ、部屋の状態がわかってきた。ようやくわたしは、上り口にボストンバッグを置いて靴を脱ぐ。
あらかじめ叔母が取りつけてくれていたカーテンの隙間からもれる、わずかな外光を頼りにしながら、まっすぐ窓へ向かってそろそろと近づいた。
2階の部屋なので、夜の窓は、とくに気をつけなさいと言われたばかりだ。
けれど、とりあえず部屋にこもった空気を入れかえたいよね。
そう考えたわたしは、カーテンを片側に寄せると、静かな住宅街へ大きい音が響かないように鍵をあけた。
ベランダの大きな窓を、ゆっくりと横へ滑らせる。
新鮮な風がゆるやかに入りこんできた。
わたしの軽い毛質のロングストレートを、ふわりと揺らす。
部屋へ流れこんでくる9月の空気は、ひんやりと澄んでいて心地よかった。
ネコの額ほどの小さなベランダへ出ずに、わたしは部屋の中から窓の外を見おろす。
すると、すぐそばの電信柱につけられた街灯が、ひっそりと裏道を照らしていた。
この時間では、もう誰も通らないかな。
そう思った瞬間。
道のはずれの暗がりの部分で、白っぽいものが動いた。
とっさにわたしは、身体を退ひきかける。
けれど、すぐに、まだ部屋の電気をつけていないことを思いだした。
となると、逆にじっとしていたほうが、向こうの注意を引きつけないかもと考えなおして動きをとめる。
そのあいだに、先ほどの白っぽいものは音もなく移動し近づいてきて、電信柱の明かりの下で止まった。
その場に姿を現したのは、ひとりの男の子だった。
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