236人が本棚に入れています
本棚に追加
/1337ページ
納得がいかないわたしは、ぼんやりと彼の行動を眺め続ける。
けれど、それだけだった。
特別、印象に残る顔でもなんでもないから、やがてわたしは我に返る。
わたしってば、なにやってんだろう?
いつまでも、知り合いでもないただの通行人を見つめていても仕方がないよね。
そう考えたわたしは、窓際から離れようとした――その一瞬。
上着を着なおした彼の首にかけている鎖とペンダントトップが、揺れた。
街灯の明かりを反射して、鈍く光を放つ。
そのペンダントトップに、わたしの目は釘づけになっていた。
そして、驚きのあまり、無意識に肌身離さずかけている自分のペンダントトップを握りしめる。
一瞬だったけれど。
彼がかけているものは、間違いなく自分と同じペンダントトップに見えたのだ。
わたしが呆然と眺めているあいだに、こちらに気づいた様子もない彼は、また足音をたてずに暗がりのなかへと、姿を消す。
わたしはその場から、しばらく動けなかった。
最初のコメントを投稿しよう!