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言葉が通じないからという理由だけで、両親とともに海外へ行かなかったわけじゃない。
このわたしのペンダントは――中央に緑の石がはめこまれた十字架のロザリオは、物心がついたときには、すでにわたしの首にかかっていた。
わたしの危険なときには、何度も常識では考えられない力で助けてくれたのだ。
そして、ロザリオを見つめるたびに、この日本から離れてはいけないという声が、どこからか聞こえているような気がしていて……。
両親に聞いてもあいまいだったロザリオの出どころと理由、それがわかるまで、わたしは日本にひとりで残ってでも調べてみようと思っていた。
その矢先の偶然だ。
この街に着いたとたんに見つけた糸口に、今夜は眠れそうもないくらい、わたしは期待を膨らませた。
とはいっても、手掛かりは、一瞬だけ目にした彼の姿だけだ。
離れていたし暗かったうえに、とくに特徴がある顔立ちだったわけじゃない。
せいぜい、手ぶらで徒歩だった彼が、このあたりが校区となる中学校の生徒だろうと見当をつけるくらいだ。
眠れないと感じた興奮を利用して、真夜中まで引越しのダンボールをあけながら、わたしはどうやって、この街で彼を探しだそうかと考え続ける。
けれど、まったく思いつかないまま、わたしは次の日の朝を迎えてしまった。
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