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それから私は毎晩夢にうなされ続けた。
それは私が育った町が氾濫した川に飲み込まれていく夢だった。
すぐそばにいるはずの家族の声すらかき消すような、雨と濁流の轟音。
少しでも高い場所へと逃げながら人や家が流されていくのをただ見ているしかなかった。
気が付けば家族とも離れ離れになってしまって。
「玲!!こっちだ!!」
私の手を握って引っ張り続けてくれた手…。
あの手のぬくもりを私はなぜ今思い出すのだろう。
川下にかかった大きな橋の欄干に掴まって、私たちは一晩を過ごした。
冷え切った体を温めあいながらがたがた震える頬を寄せ合って。
「瑛人…私達どうなるの」
「玲」
私達は15歳で、同じ町で育った幼馴染だった。
翌朝救急隊員に発見されて病院へ向かった時、私は無事に家族と再会できた。
だけど瑛人は…瑛人の家族は家ごと濁流に飲まれて二度と会うことはできなかった。
避難所で寝泊まりしながら1週間が経ったころ、瑛人の伯父さんが迎えに来て、瑛人は海外で暮らすことになった。
私の家も川の底に沈み、もうこの場所には人が住めないという話だった。
お互いがどこに移住するのかもわからないまま、私と瑛人は離れ離れになってしまう。
「玲。聞いて。もしこのまま異常気象が続いて、大地震や火山が噴火したりしてこの世の終わりが来たら…必ずここで会おう」
「ここで?この町はもうなくなっちゃうんだよ」
「なくならないよ。忘れ去られるだけだ。俺は海外へ行くし玲はまだどこへ行くかもわからない。俺たちの携帯は浸水で壊れてるし、もう他に手段がない」
「瑛人」
「ありがとう。玲がいたから俺は正気でいられたよ。絶対に忘れない。必ずここで会うんだ。約束」
そして私達は小指を絡め合った。
そうしながら心のどこかでわかっていた。
もう彼とは二度と会うことはないのだろうと。
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