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ベッドに腰掛けて夢の意味を考えていると、私の携帯が着信を知らせた。
「…お母さん?」
今聞いたら絶対に泣いてしまう声だった。けれど明るく話す母はいつもと変わらない。
「明日萌とうちへ来てちょうだい。最期に顔を見せて」
「うん…わかった。明日行くからね」
震える声で返事をすると母は「玲、無理しないで。いいわね?」と言って電話を切った。
母というものは最後まで子供の心配をしてくれるものなのか。
私はこれ以上彰に黙っているのが苦しくなっていた。
もう誤魔化すことなんてできない。私は彰に夢のことを話すことに決めた。
彰は精神科の医師でもあるのだから、きっと冷静に聞いてくれるはずだ。
軽い昼食を食べた後で「ちょっと話を聞いてくれる?」と彰をソファーに誘った。
最近見続けている夢の話。
生まれ育った町が川底に沈んだ時、生き別れになった幼馴染がいること。
そこまでは私の手を握りながら黙って聞いてくれていた彰は、「この世が終わる時ここで会おうと約束した」と話すと顔色が変わった。
「玲が魘されているのはそれか」
「彰?」
「玲は最後の瞬間をその幼馴染といたいの」
「違う…だってずっと忘れていたんだよ。10年以上前の話で、もう連絡を取る手段もない…」
「本当に?今時連絡を取る手段なんていくらでもあるだろう。本当は俺に隠れて…玲?」
私はショックでその場に崩れ落ちていた。
一度も連絡は取っていない。それは事実なのに。
「ごめん、言い過ぎたよ。だけど今になって夢に出てくるのは潜在意識の現れなんだ」
専門家らしい言葉に耳を傾けると私の手を取って彰は言った。
「じゃあ俺も聞くけど…玲は本当に俺を愛してる?」
「な、なんで?なんでそんな事言うの?私達結婚してるんだよ」
「そうだよ。俺が押しまくって結婚してもらった。だけど玲は俺が何度『愛してる』って言っても同じ言葉を返してはくれなかった。『うん』とか『私も』って言うのが精いっぱいで一度も『愛してる』って言ってくれたことないだろ」
そう言われて茫然する私の手を離すと、彰はわざとのように明るい声を出した。
「明日は実家へ行くんだろう?俺も今夜は実家で過ごすよ。何かあったら連絡して」
そのまま彰は出て行ってしまった。
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