終末のメタモルフォーゼ

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  携帯から流れる音楽はせつないほどの愛を歌っている。 その声に励まされるように私はアクセルを踏み続けた。 5時間も走らせると車は山間部に入った。 もうほとんど他の車や人を見かけなくなっていた。 県境を示す標識の下で車を止めると、携帯でSNSを開いた。 もう更新している人なんていないと思ったけど、そこにはたくさんの人のつぶやきが溢れていた。 「ありがとう」 「さようなら」 「今度生まれ変わったら…」 「また家族になりたい」  この瞬間にも多くの人が思いを伝えあっている。 それなのに私は…。 その時、携帯がピコンと音を立ててフォロアーの更新を知らせた。 その画面に見えるのは数字の「8」。 瑛人のアカウントで間違いがないと今では確信していた。 だってアップされた動画のタイトルは 「8to0」だから。 瑛人から玲へ…そういう意味でしょう? 私は震える手で再生ボタンを押した。 その場所は二人の約束の場所で。 赤い空の下に流れる川が見えていた。 そしてギターの音と一緒に歌声が流れてきた。 『おぼえてる?この最果ての地を あの日の約束を 全て失くした僕に 君がくれた希望 いつかかならず会おう それはこの世の終わりの時 最果ての地で 君に会える希望 待ってるよ また0から始まる俺たちの物語』 ゼロではなくレイと言った。 ずっとわかっていたよ。この声は瑛人の声だって。 私が見つけるのを待っているんだって。 1年前…このアカウントを見つけた時、もう結婚が決まっていたから。 彰を裏切ることはできないって自分の気持ちに蓋をしたの。 だけどこの世が終わると知った日にどうしても蓋ができなくなってしまった。 瑛人への想いが溢れだしてきて、どうしようもなく溢れてきて。 私は初めてそのアカウントに返信を送った。 「0to8もうすぐ会えるよ」 この世の終わりにふさわしいあの場所で どうか私を離さないでね。 お母さんが教えてくれた通りに、一番好きな人と一緒に行こう。 そして次の世界がもしもあるなら 今度こそ手をつないで生きて行こう。 ポケットの中のメタモルフォーゼを握りしめる。 もう涙は出ていなかった。  彼からの返事を読む前に私はまたアクセルを踏み込んだ。 〜了〜  
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