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扇子と酒
昔ながらの造りの日本家屋は夜も冷える。古びた床板が足元でぎしぎしと鳴くのを聞きながら、男は暗い廊下を歩いていた。
この屋敷は広すぎて気味が悪いー。
改めて男はそう思う。
使用人としてここに仕えるようになって十数年経つが、このような星も月もない冬の夜なんぞは一層そのように思えてならない。もういい歳をした大人が暗がりに怯えるわけでもないが、今日の仕事も終えたことだしこんな夜はさっさと離れの使用人部屋に戻りたい。
そう思い足を速めたそのときだった。
「……?」
何か今人の声のようなものが聞こえた気がして、男はぎょっとする。
こんな夜遅くに屋敷の主人が起きている筈もない。もしかすると空き巣の可能性もある。男は暗闇の中、怖々と耳を澄ます。
すると……
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