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お祭りから数日が経って、私は学校の図書室に来ていた。あの後、アキさんは私たちのことを家まで送ってくれた。だいぶ遅くなってしまったから、アキさんなりの優しさだったのかなと思ったが、また「ありがとう、の一言はないの?」と聞かれて、もう一度同じ返答をした。
図書室に入ると、誰もいないようだった。空いている席に荷物を置き、何となく本棚を眺めていると、棚と棚の間に置かれた椅子に座る人影が見えて、わ、と大きな声が出た。
「あ、ナナちゃんだ」
そこにいたのはアキさんだった。
「何してるんですか。っていうかちゃんづけ気持ち悪いです」
「んー、本の匂いを吸ってたというか、そんな感じ」
「理由が変ですし、何より不法侵入ですよ」
私が疑いの眼差しでアキさんを見ると、アキさんはあははっ、と楽しそうな笑みを浮かべて、
「まあ関係者みたいなもんだから」
と言った。不思議な人だと思った。
私は気にしないようにして、荷物を置いた席に座り勉強を始めた。するとアキさんは目の前の席に座り、私を見つめる。
「なんですか」
「ナナちゃんって何歳?」
「十六です。っていうかちゃんづけ気持ち悪いです」
「俺の方が年上だね」
「何歳なんですか」
「十七」
「一歳違いじゃないですか」
「青春の一歳はでかいよ」
私はいらっとして、勉強の手を進めた。アキさんはなにやら分厚くて古い本を読んでいるようだった。
「ナナが二個重なってるの、いいよね」
「どういうことですか」
「誰にももらわれなかった七つ葉のクローバーの居場所はここかなぁ」
私は勉強する手を止めなかった。やっぱりこっちかな、いやでも、ここだよなぁ、と言う声に惑わされる。
「図書室なんで、静かにしてもらえますか」
「そっちこそ、結構声大きいけど」
私は筆圧を強めて数学の問題を解いた。するとシャープペンの芯がぽきっと折れた。
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