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エピソードⅡ 探索
館の周りは森だが、ある程度の空間がある。車が五台ほど止まれてもおかしくないほど、木々など視界を遮るものは無い広い空間だ。
隅の方に切り株があり、その上には深々と斧が刺さっている。横には添えられるようにして丸太状の薪があった。その光景を見るに、薪割りの最中だったのかもしれない。もっとも、丸太状の薪は雨風で湿気っているせいで、火など到底着きそうもないが。
その場を立ち去ろうと左足に力を入れると、なにかを踏んだのか足裏に形ある物の感触がした。足を退け、落ち葉を掻き分けてみると、出てきたのは金色の塗装をされた鍵だった。
「鍵?どこの鍵だ?」
鍵の取って部分を見てみると『イングレッソ』と書かれていた。
「イングレッソ……イタリア語?」
意味は『玄関』だ。わかりやすくていいが、この館はイタリア人が作ったのか?ここ、アメリカの中でも古くさい田舎町に……なんの為だ。……ただの気まぐれかもしれないな。貴族のことだ。時間やらお金やらは持て余すほどあるのだろうし、こんなものをこんな所に建ててしまおうと思ってしまうのかもしれない。
それより、これが玄関の鍵だとするとようやく館の中に入れることになる。だったら早い所さっさと中に入ってしまおう。
俺は今度こそ、その場から立ち去るために足に力を入れた。当たり前だが、今度はなんの感触もなく、踏みしめた落ち葉や枝が乾いた音を立てながら、時折パキッと折れる音が聞こえるだけだった。
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