エピソードⅠ『行方』

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傷口から血道を作ってポタポタと下へ垂れていく血液。暗がりなのに、ランプで照らせば赤々とした色がよく見える。近付けたランプの中の火が、光となって液体の血に反射し、赤色の血にオレンジ色をした火がボヤけて映る。月の光を反射し、映った月を波紋で揺らす水面のようだが、揺れて見えるのは血液が波紋を広げているのではなく、ランプの中の火が揺れているだけだ。 ランプを地面に置き明かりにし、近付けた腕に垂れる血を見ながら、そんな感想を持ってみる。 そしてそれらを横目に追いやり、片手でリュックを開きペットボトルと大きめの布地を取り出す。ペットボトルの中に入っている水でできるだけの汚れなどを流し、布を腕へ貼り付けるように巻き付け縛った。医療品を持ってこなかったのは不味かったか。そう思うものの、怪我をしたのは自分だけだ。ここまで来て自分のために帰るなんてことは出来ない。 傷口はズキズキと痛むものの、傷が付いたのは左腕で、利き手じゃない分良かったのかもしれない。それでも、二つあるから一つは失ってもいいなんて概念は生憎持ち合わせていないので、無くなってはいないものの、使いずらくなったのはやっぱり痛手だった。 「……さっきのはなんだったんだ……」 この館で何が起きているのか。それを判断するには訳が分からなすぎて、情報が少な過ぎる。『叫び声が聞こえた、だから危ない』『ガラスが割れた、だから危ない』程度のことしかわからない。起こったこと、身に起きたことを単純な一文にして、更にそれを『だから』で繋げるような、幼稚園児に告げる程度の安っぽい言葉しか作れない。 「……」 もしあの館に足を踏み入れたら、今度は腕を切るだけは済まないかもしれない。負傷だけでは済まないかもしれない。得体の知れない怪物がいるかも知れないし、殺されるかもしれない。 それでも立ち上がって上へ上へ、館の方へ戻るのは、一重に妹の身と母親の言葉を反復するからだ。 (怪我をするような場所なら、マリアを早く見つけないと) 痛む左腕に眉をひそめ、落ち葉が敷き詰められている道を辿って、館の方へ向かった。
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