光背 こうはい

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 悪党は、ほくそ笑んでいる顔をあげて周りを見回した。実は、悪党の手に饅頭が現れたのを見ていたのは悪党だけではなかった。  奴は食い物を持っている。そら逃がすなと、近くに居た餓鬼が、空腹に目を血走らせ駈けだすと、辺りに居た餓鬼共数万も、一斉に悪党へと向け集りはじめた。  一度動き出した群衆は止まらない。饅頭を投げ捨てても、後から後へと押し寄せる餓鬼から押され、倒れた者立ち止まった者は群集に踏み殺される。  驚いた悪党は入ってきた門に向かって駆けた。門にいる、先程の青鬼に必死に助けを求めるのだが、青鬼は相変わらず無表情のままだ。やがて悪党は門の直前にまで辿り着いたのだが、門はもう閉まる直前であった。  悪党は、「待ってくれ! 閻魔様に話がある! もう饅頭は要らねぇ!」と門にしがみつく。が、門の隙間から垣間見える青鬼は、ニヤリと笑い門を閉めた。  このままでは、掌に饅頭が現れる度に餓鬼共に襲われる日々が千年も続いてしまう。ここにきてようやく、仏は全てお見通しであることを悪党は悟った。  しかし、今更気付いても遅いのだ。餓鬼共の足音はもう、そこまで迫っている。 〈了〉
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