光背 こうはい

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 古い朱塗りの建物の奥からは、相変(あいか)わらず閻魔に責められ泣き叫ぶ罪人たちの声が漏れ聞こえてくる。  罪のない人々を酷い目にあわせてきた俺には、どんな仕置きが待っているのかと、悪党は震えながら自分の番が来るのを待った。  やがて悪党が裁かれる番となり、閻魔の前へと引き出される。白州に跪いた悪党は、どんな言い訳をしようかと必死に思案していたのだが、良い知恵は浮かんでこない。  ところが悪党に対し、閻魔は意外な言葉を掛けた。 「お前は本来、千年ほど針の(むしろ)に座る所であるが、一度恵まれない子供に饅頭を恵んだ事があるによって、御仏の慈悲により餓鬼として千年の罰を受けるがよい」  信じられない言葉に悪党は、腹を空かせた乞食のガキに、痛んでいた饅頭を施してやりはしたが、こんな事ならもっと遣っておけばよかった。『ガキを助けて餓鬼にされる』とは皮肉なものだとほくそ笑んだ。
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