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脱出(6)
光線がデブリの海を突き進む。あとに残ったのは灼熱の赤い道だった。
リーン!リーン!・・・・・・
連続する高い警告音。照明が暗転する艦長室、ついで上下左右の激しい揺さぶりが艦全体を襲う。
第一戦速の加速を、その正面から一条の光が押さえつける。
激しく飛び散る飛沫。
慣性の働いた衝撃に、ついにホワードの体を支えるベルトが千切れ壁に向かって落下した。
「ぐっ!」と一度短く声を上げる。
シュトゥリングルスが放った中性粒子ビームが、イクリプスの艦首左舷に搭載した熱核融合プラズマ推進エンジンモジュールに突き刺さる。
エンジンモジュールを守る、斜めに盾の様に傾けた厚さ2.5メートルのセレジウム複合装甲の一枚板は、その表面を超強力な電磁場によってコーティングさせて、中性粒子の放射熱の侵入を防ぐ。
その接触境界面は摂氏2億度を超えるが、理論上は電磁場によるコーティングが剥がれさえしなければ、ビームを構成する中性粒子の進行方向をコントロールして防ぎきることが可能なはずである。
しかしそれは、光速の30%と言う天文学的な速度で接近するプロトンビームを、盾一枚でピンポイントで受け止める「勇気」と、理論に裏付けされた現実を信じ実行する「覚悟」をあわせ持つことが、実行する絶対の前提条件である。
リーン!リーン!リーン・・・・・・
聞きなれない奇妙な警報がヘッドセットを震わせる。悲鳴をあげているのはイクリプスだ。
“アダム! 絶対にバランスを崩すなよ! 絶対だ!!! 絶対にだっ!!! 受け止めきれっ!! ゼッタイダッ!!”
真っ白に光る粒子の束を、直線的な盾(エンジンモジュール)のシルエットが受けとめる。白と黒のコントラスト。光と影が強化ガラスを突き破り、激震の艦橋内に突き刺さる。
エヴァンズは、汗と鼻水と大粒の涙をバイザーの内側にまき散らし、窒息しそうになる視界をよそにアダム操舵長の黒いシルエットに檄を飛ばす。
一方のアダムは冷静で、一点の光点を左舷に飛び出た盾で隠す様に、握った操縦桿をコントロールする。
コントロールできないほどの、衝撃じゃない。操縦桿に伝わる感覚からアダムは「いける」と確信を持った。
“ビーム発射点! 座標154.-18.352誤差修正完了! 誘導弾発射します!!”
暗転した照明の代わりは、非常用の赤色LEDがあとを引き継ぐ。
凄まじい揺れが、CDCに配置されたタッチパネルコンソールの文字盤に、重なりあった残像を生み出したように見えた。
パネルを一度タッチしたマキタには、それが重なった残像などではなく、ビーム直撃のEMPジャミングの影響を受けた激しいノイズだとすぐに分かった。
二度、三度人差し指でパネルを叩くが訓練の時の様に、パネルが素早い反応を示す様子がない。
“……マジかよっ!! 手動で発射しなきゃ!! カルヴィン伍長! 手伝って”
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