61人が本棚に入れています
本棚に追加
/86ページ
腰部スカートアーマーにマウントした277㎜バズーカを、小型マニュピレータークレーンによって前方に押し出すと、バズーカ底部に備え付けられた小型推進装置で、さらに前方に射出する。右腕のマニュピレーターで、機体前方に射出されたバズーカのバレル上部にL字に突き出たキャリーハンドルをキャッチし、そのまま強引に右肩に構えた。
全天周囲モニターの正面にコロニー先端部のエントランスブロックから蜘蛛の巣の様に複雑に、立体的に伸びる細い桟橋をはっきりと補足できた。
かなりの数の艦船が、まるで蜘蛛の巣に捕らえられた蝶のように停泊している。
ヴァンダーファルケのFCS(Fire Control System=火器管制装置)が目標を識別し、優先的に277㎜バズーカの照準で捉えたのは、地球国家連合統合宇宙軍空母艦コヴェントリーだ。
伸びた桟橋で急いで係留を解かれた灰色の空母艦は、いち早く異常事態を察知し、まるでやっとこさ逃げようとするモンシロチョウの様に、艦底部のサイドスラスターから青いプラズマを最大に吹き出し、ゆっくりと離岸しようとしている。
“…………”
ディアナは、コヴェントリーとその他の艦艇群を視界の中心にとらえ、出力ペダルをさらに大きく踏み込んだ。
射撃アシストシステムが、277㎜核弾頭の弾速、目標との相対速度と距離から照準誤差を割り出し、確実に命中する距離と致命的なダメージを与えられる射角をHMDに表示させる。
<目標。アラバマ級空母艦「コヴェントリー」。
適正射撃ポイントまで。3……2……1……>
<――0>
AIが放つ無機質な合成音声が、背中越しの核融合エンジン、衝突警告ブザー、デブリが装甲を叩く不協和音に満ち、激しく振動する狭い球状の全天周囲コックピットに、アクセントの様に反響する。
“TITAN Ⅰ shooting”
ズズゥゥゥ! シィイイイィィッ!!
ショルダーアーマーに担いだバズーカから装甲を通して、発射される弾頭とバズーカのバレルとが激しく擦れてかなびく金属の音と、弾頭の推進装置が奏でる轟音が合わさって、コックピットに響き渡る全ての不協和音をかき消した。
まるで、交響曲の終わりを告げるシンバルの様に。
――グッ………――
一瞬のフラッシュが、全天周囲モニターを真っ白に焼き付かす。
次にすさまじい衝撃波がコックピットを襲い、気づけば超高温の巨大な火球が、モニターの目前に静かに生み出され広がっていく。
後部甲板上方に核弾頭が直撃した空母艦コヴェントリーの甲板構造物の装甲は真っ赤に溶解し、ブクブクと細かい気泡を発生させ、すさまじい衝撃波が艦尾の熱核融合エンジンを貫き、全長1000メートルはあろうかという巨大な船体が「くの字」に裂けて折れ曲がる。赤色に溶解した内部構造物は、同心円状に広がる衝撃波にのって、まるで血の色の後光がさしたように神々しく膨らんではじけた。
枝分かれした爪楊枝のように、細く伸びる桟橋はゆっくりと広がる火球に飲み込まれた部分は瞬時に蒸発し、飛び散った船体の装甲や部品が、彗星のような勢いで火球の影響を免れた蜘蛛の巣の桟橋を、まるで細い飴細工をスプーンでバラバラに砕く様に、次々と切断した。
桟橋は、船に乗り込む為の内部が密閉されたタラップになっていたが、そこで隊列を組み乗艦するために待機していた乗組員もろとも、鉄くずと化した壁面と一緒に宙に放り出され、ある者はデブリの直撃で身体が消滅し、またある者はゆっくりと広がる火球に飲み込まれて消えていった。
“こちらブラヴォーワン。
宙域の右翼側が手薄だ。繰り返す右翼側が手薄だ。
これよりコロニーに接近、内部に侵攻する。
スコードロンブラヴォー続け。スコードロンブラヴォーは私に続け”
“ゴースト小隊。こちらグランドクロス。
座標80.260.-40戦闘宙域外に哨戒中の敵勢力をとらえた。
繰り返す。座標80.260.-40戦闘宙域外に哨戒中の敵駆逐艦二、巡洋艦一を捉えた。
迎撃態勢を整えろ。コロニーに近づけるな。
なお、これよりコロニーの防衛勢力とのセレシオンによる白兵戦が予想される。
警戒されたし”
“こちらエコースリー! 攻撃開始! 宙対地誘導弾、FOX Ⅳ Shooting! Shooting! Shooting! Shooting!”
友軍の無線が錯綜する。
スコードロンエコーに装備された「Mk88汎用宙対地核誘導弾」が、スルスルと何本も白線を描きながら、桟橋に突き刺さり複数の火球が燃え上がる。
“しばらくこの桟橋は使えない。
停泊している艦船もついに動かなかった”
火球が重なり合い、艦船を飲み込んで消えていくのをじっと見ていた。
コロニー防衛隊のセレシオン「F-15Rジャクリーヌ」の群れが、まるで巣を突かれた「働き蜂」の様にコロニー先端のエントランスブロックに設けられたスペースポートより、炸裂する火球を迂回して次々と迎撃に上がるのが見える。
12年待った。ようやく今日、この時が訪れる。
「約束の再会」
ディアナは心を躍らせていた。
まるで初恋を経験した少女のころ。あの日の夜の様に。
”少佐。お迎えに上がりました”
ディアナは独り言ち、フットペダルを全力で踏み込んだ。
最初のコメントを投稿しよう!