2人が本棚に入れています
本棚に追加
想い出
………あの日、あの頃、あの場所で出会った、あのお爺ちゃん。………今頃、何処で、どうなさっているのかしらね?
その日、どしゃ降りの雨の夜の中、ワタクシは、アルバイト先へと向かっていた。
お客としては、1度は食べてみたいとも思わない一軒の古びたラーメン屋さん。
そんな気持ちだから、仕事中も上の空。
その頃の事だった………。
今迄、テーブル席で一杯のラーメンをすすっていたひとりのお爺さんが、帰り支度を始めて、お店の扉を開けて、外へと出て行った。
「………有り難う御座いました。お気を付けて。」
でも、そのお爺さん。店の前で佇んだまま、ピクリとも動かなくなってしまい………。
気になって、その頃のボクは、そっと優しく話しかけたのだけれど………。
「………御客様。どうかされましたか?」
でも、そのお爺さんの一言。
「………ワシは、これから、何処へ帰れば良いんじゃろうか?」
それって、典型的な認知症???
こんな時、アナタだったら、どうするのかしら?
その頃のボクは………………
「………そう言う事でしたら、近くに交番がありますから、先ずはお巡りさんに相談されては如何でしょうか?………ワタクシも御一緒しますから。」
「………ワシは、交番だけはイヤじゃ!!」
………と、思わず愚図ってしまうお爺さん。
唐突に、ワタクシの背後から店長の冷徹な声。
「………そんなクソジジイなんか放っておけよ!そんなコトより、仕事しろ。………仕事!」
世の中、下らない人間からはした金を奪い取る為だけに、クソ不味いラーメンを押し付ける行為が仕事なのかしらね?
………何と言う、世知辛い世の中。
目の前で光る、クルマのテールランプが唐突に眩しく感じてしまって、何だか『ツラい』。
結局、その頃のボクは、遠ざかって行く寂しげなお爺さんの背中を見つめ続ける事しか出来なかったみたいで………。
その時、その頃のボクは神様に誓った………。
「………何時の日か、あのクルマのテールランプよりも、夜の街に輝くネオンサインよりも、人の心の中で輝き続けられる、そんな『光』にワタクシはなりたいですぅ 。。。」
《 完 》
最初のコメントを投稿しよう!