この日、あの人に。

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この日、あの人に。

「にーちゃん」と言いながら、リュックを背負った同い年くらいの男の人がやってきた。その人は私に気がつくとペコリと頭を下げる。私もお辞儀を返すと、その場を後にした。 病室の外の壁にもたれかかり、ふぅ。と息をついた。 「次、行くわよ」と先輩が向こうへ歩き出した。カラカラと音を立てる台車を眺めながら、私もその後に続く。 病室の中から「今の看護師さん、綺麗な人だったな」と言う彼の声が聞こえ、思わず振り返った。 「あの人と、どこかで会った気がするんだよなぁ…」 「何だよ、ナンパ?」 そんな会話が聞こえ、私はクスッと肩をすくめた。「何してるのー?」と先輩から言われ、私は急いで先輩の元へと向かった。 私が看護師になったのは、きっとあの人に会うためだったんだ。
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