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夢のような現実
「うわぁーん」という声にハッと我に帰る。見ると男の子がコケて泣いているのだ。私は思わず後ずさった。
「なに、これ……」
さっき見たものと目の前の光景が重なる。赤く染まるアスファルトを思い出し、出てきそうになったものを慌てて飲み込んだ。手に持っていた食べかけのアイスが地面に落ちる。
視界の隅に赤い車が映る。「ごめん」と心の中で呟いて、私は目を瞑った。キューーーッという音が響いて、周りが騒がしくなる。
……ただ、ドンッという鈍い音は聞こえず、騒がしさの中に「おい、大丈夫か?」「良くやったな!」という声が聞こえてきた。周りの騒がしさも、想像していたものより落ち着いていた。
恐る恐る目を開けると、男の子は無傷で、電柱に肩を付けるようにして横になる男の人を心配そうに揺すっていた。男の人といっても同い年か、少し上くらいだろう。
あの人が助けたのだと気がつくと、私はその場に力なく座り込んでしまった。近くを歩いていた人がチラリと私を横目に見て通り過ぎる。
何とか力を込め立ち上がったが、足が震えているのが分かる。今日は比較的涼しいとはいえ、まだ夏で汗ばむ時期なのに指先が冷たくなっていた。
私は、何も、出来なかった……。
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