相も変わらず

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相も変わらず

その日から、私は看護師の勉強を始めた。スタートは少し遅かったが、幸いにもそういう方面に心強い人が家にいるのだ。遠慮なく頼り、私は無事看護学校に入学した。 そして今日から、配属先の病院で働くことになっている。先日、短大を卒業したばかりで、緊張しかしていない……が、先輩の後につき、ひたすら言われたことをやった。 その間にいつのまにか緊張はほぐれ、気持ちに余裕が出来た。「ありがとう」という患者さんの言葉にその都度胸が暖かくなる。 「次はここね」と先輩が入った病室に入る。そこには、忘れもしないあの日の男の人がいた。相変わらず…というほどの知り合いでもないが、あの時と同じように手紙を書いていた。 半分ほど中身の減ったパックから伸びたチューブが、彼の腕に固定されている。突然、またパッと視界が白くなる。意外と頭は冷静で「久しぶりの感覚だな」なんて考えた。 見えたのは彼が病室にいる光景。今よりもやつれて見えたが、変わらず手紙を書いていた。書き終えたらしい手紙を封筒に入れ、ベッドの横に置いてある鳥小屋のようなポストに入れた。 「手紙、出してきましょうか?」と声をかけると、彼は首を横に振った。「これで大丈夫なんです」と言った。 それから3ヶ月も経たず、彼のいたベッドには別の人が寝ていた。
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