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未来の、自分へ
現実に返ると、私は思わず声をかけた。なるべく自然に、何気なく。
「誰宛なんですか?」
彼に繋がるチューブを確認する。パックの減り方を確認し、予備を隣に引っ掛けた。チラリとベッドの名前を見る。
[魚住 春(27歳)]
私より3つ年上なのかと驚いた。落ち着いた雰囲気があるものの、見た目の若さというか…オーラみたいなものが大学生のようだったから。
「え…あ、えっと……未来の自分へ、です。ポエマーとでも呼んでください」
そう笑いながら冗談を言う表情は、あの光景からは想像できないほど明るかった。とても重たい病気を抱えているようには見えない。
「……どうして、入院されているんですか…?」
思わず聞いた私は「あっ」と口を押さえる。患者さんたちは好きで入院しているわけではない。そんな人への質問としてはあまりに失礼だと気づいた。なのに、彼は嫌な顔一つせずに答えてくれた。
「家で倒れてしまって……でも、検査結果はなんともなくて、疲れが溜まっていたんだろうって言われました。明後日には退院しますよ」
その落ち着いた表情に、私はほっと胸を撫で下ろした。無意識に「良かった…」と呟いていたらしく、彼は驚いた顔をしていた。
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