囚人 霧雨

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囚人 霧雨

 今日も雨が降っている。  耳に届くのは、サーッと天から降り注ぎ、地へ染み込みゆく粒の音。いつもの雨と違って、今日は地面に当たる音がしない。  けれども、肌に感じるしっとりとした心地は紛れもない雨の気配。寝台の布も、石壁も、どこかじっとりと湿っていて。濡れた大地の薫りに混じって、微かな錆の薫りもする。  そうか、今日は霧雨だ。  ボクは霧雨が好きだ。  まるでベールのように空間を包み込み、耳に心地よい雨音を立てる。耳を澄ませば微かに聞こえる野鳥の声。それは、まるでこの世界に一人ではないと言われているようで、他の雨よりもほんのちょっぴり霧雨が好き。  しかも激しくない雨音は、ここにいるもう一人の人の存在をも明白にしてくれる。  ほら、今日はしっかりとその固い足音が聞こえる。コツコツコツ───と、次第に大きくなる靴音。それから、キィとこの場所の扉が開く音。それからそれから、またコツコツコツ───とボクに近づいてきて。  それから───ボクの闇にほんのりと光が灯る。  この瞬間が大好きだ。  実は、霧雨よりも。  だって、この時、この瞬間、まるでボクの心にも光が宿ったようにポカポカと暖かいキモチになるんだ。  話しかけようかな?  でも、もしかしたら毎日別の人が光を灯してくれているのかもしれない。  でも、いつもありがとうって、それだけ、ただそれだけを伝えちゃダメ、かな?
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