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「それでそれで?」
同僚の七実が割り箸を握り締め、瞳を輝かせた。
職場から程よく近くにある回転寿司店のソファ席を二人だけで陣取り、かなり遅めのランチである。
仕事柄、ランチの時間は決まっていない。
大概はお昼時の混雑を避けている。
「落ちてきた人の腕がぶつかったみたいで、軽い打撲らしい」
依織は湿布を貼った右腕を七実に見せた。
それを見て七実が顔をしかめ、「なんか怖い」と呟く。
確かに飛び降り自殺に巻き込まれて怪我をするなどと、後味も悪い。
腕と腕がぶつかった時はまだ生きていたのか、だなんてつい考えてしまった。
「呪われたりして…………」
「やめてよっ、呪う相手が違うでしょう?」
飛び降り自殺を決意するまでに、きっとそこに追い込む何かがあって、理由や原因がある。
それに、誰かを呪うエネルギーがあるのなら、自殺は選ばない気がする。
そんなエネルギーなどなくなるくらいに絶望したのだろう。
乗り越えられずに死にたくなる気持ちは、依織には痛いほど分かった。
「ねぇ、ねぇ、イイオトコいなかった?」
「イイオトコ?」
七実がイクラの軍艦巻きを口に入れながら、ニコニコと頷く。
そう言えば、七実は恋活中なのだ。
「普段会えない人達に会えんじゃん。消防の人とか救急隊とか、あとお巡りさん!」
ふと、あの警官が頭を過った。
良く見ると、意外にも整った顔立ちだった。
簡単な事情聴取を受けた際、ペンを握る指先が綺麗で、少し見蕩れてしまった。
「あっ、いたんでしょう?!その顔、誰か思い出してる」
「いたにはいたけどね、すっごい無愛想な男でさ、顔が良くてもアレじゃあね」
それに依織はあの警官の目が苦手だった。
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