虎穴虎子

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虎穴虎子

湊陽也は、瞠目したがそれは一瞬の事で、すぐに取り澄ましたような涼しい顔に戻っていた。 そして、僅かに目を細める。 「そうでしたか、道理で」 憐むでもなく、動揺も見せない口調に依織は違和感を覚えた。 初めて対面した反応だ。 警官だからと言うより、心療内科の医師のような、淡々とした受け止め方。  …………それか、同じ経験をしてる? 「道理で、ってどう言う意味ですか?」 警戒心がほんの少し好奇心へと変わっていた。 「この仕事をしていると様々な事件や事故を目にするんですが、同時に色々な経験をした方とも対峙するんですよ。先日のような遺体を目の前にして大概の人はショックを受け動揺する」 湊陽也の言葉に依織はふとあの時の自分を振り返る。 確かに飛び降り自殺に遭遇した事には驚いた。 だけれど、それだけだった気がする。 「志岐さん、貴女の目は死を受け止めて(・・・・・・・)いた」 あの時の湊陽也の目を思い出す。 探るような眼差し、それは見抜いていたからだと言うのか………… いくら警官でもそんな読心術のような真似事をできるとは思えない。 やはり、同じ経験をしているからこその勘ではないだろうか。 「湊さんも、ですか?」 その目を見詰め、依織は思わず問い返していた。
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