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『魔法のランプを持つ男』
榊原悠真には叔父がいる。
元銀行員だと言うその人は、とても優秀な人で、父とはまた違う魅力のある人だ。
父には相談できないことも、この叔父になら相談できることもあり、たまに顔を合わせて、食事をしたりするのが、好きなのだ。
今、目の前にいるその人は、悠真に大人の笑みを見せていた。
「正直に言うけど、金融系は大変なことも多いぞ。」
「と言っても、金融機関ではないですよね。」
「まあ、そうではあるんだが。あそこは微妙に人が入り乱れているから、普通の企業より複雑な面もあるんだな。」
叔父である貴志は、甥っ子の悠真が可愛い。
自分のところに子供がいないし、なおさら可愛い。
だから、苦労させたくない、というのが本音だし、甘やかしと言われても、榊原トラストに入ってしまえばいいのに、とも思う。
けれど、自分のことを振り返ると、榊原の…と言われたくない、と言うその気持ちも分からなくはない。
兄であり、悠真の父である貴広は、悠真がどこで就職しても、何も言うつもりはないらしい。
──そこがあの人らしい、というか…。
本当に、その気なら、ここまで来い、という考えのはずだ。
現に当の本人がそうだったのだから。
そもそも、榊原トラストは世襲ではない。
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