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「あ、ははー。えっと、結婚、ダメになったのご存知ですよね。」
「まあ…。デパートのお取引先でもあったからね。一応、聞いてはいた。会社がダメになったんだよね。」
「はい。で、住むところもなくなってしまって、ですね。」
「はあ?なんで、連絡して来ないの?」
そんなこと、言ってもらえるなんて、思っていなかった。
あの時、いかに周りが見えていなかったか、よく分かる。
「いや…そんな、退職したのにご迷惑かけるわけにはいかないかと…。」
「そういうレベルじゃないでしょ。で?」
「で、銀行の窓口やってたんですけど、気づいたら営業社員になってまして。」
ふっと、奏に微笑まれる。
「なんか、葵らしいな。」
「で、上司に結婚しようと言っていただいて、結婚しました。」
「葵、話を端折はしょっている?」
「いえ。結構そのまま…。何というか、旦那さん、一緒にいて、すごく居心地いい人なんです。こう、安心できる、というか。」
「銀行員なんでしょ?まあ、安心よね。」
「だけではなくて、人として、て感じです。」
今は銀行員ではないですし。
「いろいろあったんでしょうから、葵が安心出来るのが一番だと思うよ。」
「てか、奏先輩…。」
テーブルの上に出ていた左手の指輪を指さした。
うん、私も結婚したよ。と言われる。
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