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その後のことはあまりよく覚えていない。
というよりも、思い出したくない。
もうやけクソで、自分の趣味の話をベラベラ喋って、調子こいた。
隣りの志望者の女性。
ドン引きだったなぁ……
あの哀れみの目。
惨めだ。
恥ずかしすぎて、死にたい。
本気で死んだように落ち込んで、しばらく再起不能になった。
もう浪人でも良いかなぁと、
就活自体を放棄しかけていた。
しかし、数ヶ月後。
僕は目を疑う事となる。
『拝啓
時下ますますご清栄のこととお慶び申し上げます。
このたびは、弊社の求人にご応募いただきましてありがとうございました。
慎重に選考を重ねました結果、あなたを採用することが内定いたしましたのでお知らせします
ーー 』
はい?
……採、用……?
不採用の間違いでは?
うっそだろ!
差出人を間違えただろ!
しかし、宛名は『坂島 天斗様』と書かれてる。
いやいやいやいやいやいやい……
通知書を両手で持ちながら、部屋中ウロウロしまくって、
なんでだ?
問い合わせてみるか?
『なんで僕を採用するんですか?』
って、いやアホだろ。
それこそ。
早鳴りする動悸を抑えながら悶々とする。
採用してもらえる事は、この上なく有難い。
けれど、あの面接は我ながらひど過ぎる。
一言で表すなら『無残』としか言いようがない。
そもそも僕なんかお門違いも甚だしい。
今、花形のIT企業。
スマホアプリの企画、開発、運営をしている注目株のベンチャー企業『Charles』
システムエンジニアとして、プログラムや3Dモデリングなんかの専門的スキルなんて、ほとんど持ち合わせていない僕がだ、募集要項の未経験可の文字だけで、軽々しく、モノは試しに、行き当たりばったりに、就活記念的に、ええとええと後は、とにもかくにも、落とされて当然のハズなのに……
なぜに?
あの試験官。
気でも狂ったか?
採用通知を受け取った後。
僕は、ずっと頭を抱える事となった。
必要と判断されたのだから、堂々と胸を張って出社すればいいだけの話、なのかもしれない。
けれど、何も出来ません状態の僕が、レベルの高さについていけず、周りに敬遠され、虐げられ、会社のお荷物になる。オフィスの隅でひっそりと、目立たぬよう肩身の狭い思いでやり過ごす。
そんな悪い想像ばかりしてしまう。
上司や職場の同僚に、冷ややかな視線を浴びながら尚、平静を保てる程僕の心臓は強くない。
針のむしろに身を投じる不安と恐怖しかなくて、働く前から五月病のような鬱が襲う。
いっそ採用を取り消してもおうかとも考える。
そして、最後には熱を出して寝込んだ。
ウンウンと熱にうなされながら、
とうとう現実逃避の幻覚を見るまでに至ってしまう。
微睡みの中。
天体観測してる……僕と……
滝沢……さん……?
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