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「キュビズム、みたい」
「……?きゅ、きゅび?」
「うん」
赤いマフラーを深く巻いて、唇からぱっと白い息を見せながら、振り返る。
望遠鏡から望む瞬く星々の光。
そのたくさんの光りを取り込んだ瞳が輝いて、とても嬉しそう。
「坂島君の星座の話、聞いてるとなんでか有名な絵画を空に描いてるみたい。……へへ。ピカソとか……」
少し興奮気味にはにかんで、薄い桜色の頬が闇夜に浮かぶと、周りの空気が少し温かくなる気がした。
「あぁ、絵の話。美術部だものね」
彼女に『すばる』は星座なのかと聞かれ、おうし座の説明をしていた。
冬の夜空を彩る代表格、オリオン座。それと重なるようにしておうし座はある。ちょうどオリオンの左肩には冬の大三角形の一角、一等星のベテルギウス。それを牡牛の左角に見立てて、そこから少し右上、一際輝く赤い星、アルデバランが心臓のところ。おうし座の胴体と足の付け根のあたりには、地球から約400光年先のところに、120個ほどの恒星が散開している。その星団が、プレアデス星団。
和名を『すばる』と呼んでいる。
「なんだ、昴座って言うのがあるんだとばっかり思ってた。えへへ」
「あってもいいね」
「キレイだなぁ。なんであんな、いろんな光り方してるのかな……」
「可視光線は面白いよね」
「もう、また難しい事言う……」
膨れた。そんな顔もまた……
「はは、ごめん。プリズム現象と理屈は一緒だよ。雨上がりの虹みたいに、色相が見えるでしょ。色として認識出来る光。それが可視光線。表面温度によって星の色は変わるから……」
「赤かったり、青かったり……」
「うん、その並びをスペクトルって言うんだ。O.B.A.F.G……あと、K.Mの順に……」
「凄い!そんなことまで知ってるんだ。オタクーー」
それは、僕にとっては褒め言葉。
「まあね、覚え方があるんだよ…………」
…………………
あぁ、これ、夢なんだなって、薄々気づきはじめた。
だって彼女と、夜空を見上げて、天体観測した事なんて一度もないから。
僕の作り出した妄想だ……
「ね!それ!口説いてるでしょ?」
(たぶん覚え方の説明したんだろう)
しばらく見つめ合ったまま、
黙る。
やがて、
彼女は、無防備に、僕に大事な何かを許すかの様に、ゆっくり目を閉じて、唇を向けてくる。
彼女の小さいけれど厚ぼったい可愛い唇に、引き寄せられる。引力みたいに、
お互いの唇が近づいて………
そこで目覚めた。
二度寝しても夢の続きは見れなかった。
もう、彼女の顔も、上手く思い出せないな……
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