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乗客は俺一人だった。そりゃそうだ、これは俺の個人的な問題なのだから。
運転手はいたので俺はそこまで歩いて顔を覗き込もうとも思ったが、振動が心地よく、その気は消えた。そしてその惰性もまた心地よくさせる要因となり、俺はひたすら流されるまま、ぼんやりとして過ごした。
最初の停留所は「ギャンブル」だった。俺の体はパチンコ店に運ばれていた。目の前で小粒の鉄球が沸き続け、光は踊り続けた。それに耳を劈く轟音が加わって、俺の脳みそはその処理に追われて思考を放棄した。俺は何度も最寄りのATMに足を運ぶ自分を他人事のように見ていた。
ATMにも金がなくなって来た頃、再び漠然とした不安が動き出した。金銭的な危機感はなかった。妻子への申し訳なさもなかった。それよりも居ても経ってもいられないという焦燥がずっと強かった。足早にパチンコ店は離れてゆく。これから俺はどこに向かうのだろう。
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