例え、この身が…

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 その日、俺はいつものように宮崎台駅に出勤し、いつものように往来する電車を捌いていた。  退屈だったが、その退屈が嵐の前の静けさだったことに気が付いたのは、8時過ぎのことだった。  最初車掌から連絡があった時、俺は耳を疑った。しかし目の前に現れたその乗客を見て、今度は我が目を疑わなくてはならなくなった。  その乗客は異様な風体をしていた。上がパジャマ、下がスーツという服装もそうだが、まず、黒焦げなのである。どうやら連絡の通り本当に電車内で落雷の被害に合ったようだ。髪の毛は逆立ち、頭から湯気が出ている。  そして顔はメラメラと燃えており、また膝の水が沸騰したのか、関節がおかしな方向に曲がっており、肺が爆発したのか、肋骨が体の外側に突き出ている。  息を呑んでいると、その乗客は少ししてフラフラとこちらに近付いて来た。傍らにはその上司と思われる男性がおり、「この状況を楽しめ」と独特な励まし方をしている。  さらに近付くと大粒の涙が表面張力のせいかその乗客の目の周りを包んだまま固定されていることに気が付いた。またその乗客の背中には老婆がしがみついており、その乗客の頭をハンマーで殴り続けていた。  俺は大急ぎでその乗客に駆け寄った。その時、急に横殴りの雨が駅に振り始めた。  嵐がやって来たのだった。
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