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「やっぱそうか。圭太にも言われてんだ。お前の『好き』は重すぎるって。重すぎて絶対彼女ドン引きしてるって」  私はそんな遠野くんを見ながら、くすっと笑って言った。 「遠野くん、本当に美織さんのこと、好きなんだね?」  茶色い髪をくしゃっと握ったまま、遠野くんが上目遣いで私を見る。 「うん。美織のこと、好きすぎてつらい」  本気でそう言い切ってしまう遠野くんは、あきれるほどまっすぐだ。 「美織さんは幸せだね。そんなに遠野くんに好きになってもらえて。でも一人になりたい時もあると思うから、そういう時はそっと見守っていてあげた方がいいんじゃない?」  私の言葉を、遠野くんがじっと聞いている。 「あ、私は誰かと付き合ったこととかないから、想像だけど……」 「……うん」  私の前で遠野くんがうなずく。 「わかった。重森さん、ありがとう」  私はちょっと焦って遠野くんを見る。目が合った遠野くんは、私の前で満足そうに笑う。 「あー、やっぱ重森さんと話してるとすっきりするなぁ」  もしかして私は遠野くんの、都合のいい相談相手にさせられているのかもしれないけど。  それでも遠野くんが笑ってくれるなら……私はやっぱり嬉しい。 「遠野くん、今日も体育サボっちゃって大丈夫なの?」 「大丈夫大丈夫。でも次は行くよ」  遠野くんは「あ、そうだ」と言ってポケットをあさり、何かを私の前に差し出した。 「これ、重森さんにあげるよ。俺のしょうもない話を聞いてくれたお礼」  遠野くんの差し出した手の上にあるのは、イチゴミルクのキャンディー。 「え、いいの?」 「こんなもんで悪いけど」 「ううん、これ好き」  その一言をはき出して、さりげなく口元を押さえる。ちらりと遠野くんを見ると、「俺も好きなんだ」とにこやかに手を近づけてくれた。  何慌ててるんだろう、私。キャンディーが「好き」って言っただけなのに。一人で意識してバカみたい。 「ありがとう」  私はそっと手を伸ばし、遠野くんの手のひらからキャンディーをもらう。その時ほんの一瞬、私の指先と遠野くんの手のひらが触れ合った。 「重森さんもさ、何かあったら俺に相談してよ。頼りにならないかもしれないけど、話くらいは聞けるから」 「うん」  遠野くんの前でうなずく。すると遠野くんが、ほんの少し私の耳元に顔を近づけて言った。 「あ、好きな人できたらさ」 「え……」 「俺にこっそり教えてよ。できる限り協力するから」 「う、うん」  耳が熱い。遠野くん、そんなに近くで内緒話しなくても、この教室には誰もいないよ。  遠野くんがもう一つキャンディーを取り出して、それを口の中に放り込む。私もそっと包みを開け、ピンク色のキャンディーを口に入れる。  どこか懐かしい味のイチゴミルクキャンディーは、いつもよりずっとずっと甘い味がした。
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