6/7
前へ
/94ページ
次へ
「よかったわね、倒れたのが学校の前で。それにちょうど河合さんがいて」  苦しくて動けなくなってしまった私は、美織さんに先生を呼んでもらい、保健室に運び込まれた。幸い発作はたいしたことなく、少し横になったら治まった。 「もうすぐおうちの方がお迎えにくるから」 「すみません……」 「いいのよ。でも無理したら駄目。自分の体は自分が一番よく知ってると思うけど」  保健室の先生は、ベッドに横たわった私に笑いかけてから離れていった。 「じゃあ私も、そろそろ帰るね」  ベッドの脇にいた美織さんが私に言う。美織さんはずっと、私に付き添っていてくれたのだ。心から申し訳なく思う。 「あ、ありがとうございました。またご迷惑をかけちゃって……」 「迷惑だなんて思ってないよ? 私もよく人に助けてもらってる」  そんなの嘘だ。美織さんはしっかりしていて、いつだってみんなから頼られているのに。 「あの……時間大丈夫ですか? 今日用事あったんじゃ……」 「え?」  私の言葉に、美織さんは不思議そうな顔をする。 「私、さっきまでクラスの友だちと一緒で……その中に遠野くんもいたんです。それで遠野くんが、先輩は今日用事があるって言ってたから」 「ああ、そうだったの」  美織さんが私の前でにっこりと微笑む。 「もう用事は終わったの。ほらさっき車から降りたでしょう? 中に乗ってたのは私の妹と弟で運転してたのは母。今日は久しぶりに会う日だったから」 「え……」 「うちの両親、去年離婚してね。母が小さい妹と弟を連れて家を出たから……私は時々約束して会ってるの」  そうだったのか。  私は校門の前で見た、美織さんの顔を思い出す。車の中に笑顔で手を振ったあと、去っていく車を見送る美織さんの表情。どこか寂しそうな目をしていた。 「ごめんなさい……私、何も知らないで……」 「え、どうして謝るの? 別に隠してるわけじゃないし……あ、でもこんな話、柚くんしか知らないか」  美織さんはそう言っていたずらっぽく笑う。いつもの凛とした表情とは違い、なんだかとてもかわいらしい。
/94ページ

最初のコメントを投稿しよう!

48人が本棚に入れています
本棚に追加