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「よかったわね、倒れたのが学校の前で。それにちょうど河合さんがいて」
苦しくて動けなくなってしまった私は、美織さんに先生を呼んでもらい、保健室に運び込まれた。幸い発作はたいしたことなく、少し横になったら治まった。
「もうすぐおうちの方がお迎えにくるから」
「すみません……」
「いいのよ。でも無理したら駄目。自分の体は自分が一番よく知ってると思うけど」
保健室の先生は、ベッドに横たわった私に笑いかけてから離れていった。
「じゃあ私も、そろそろ帰るね」
ベッドの脇にいた美織さんが私に言う。美織さんはずっと、私に付き添っていてくれたのだ。心から申し訳なく思う。
「あ、ありがとうございました。またご迷惑をかけちゃって……」
「迷惑だなんて思ってないよ? 私もよく人に助けてもらってる」
そんなの嘘だ。美織さんはしっかりしていて、いつだってみんなから頼られているのに。
「あの……時間大丈夫ですか? 今日用事あったんじゃ……」
「え?」
私の言葉に、美織さんは不思議そうな顔をする。
「私、さっきまでクラスの友だちと一緒で……その中に遠野くんもいたんです。それで遠野くんが、先輩は今日用事があるって言ってたから」
「ああ、そうだったの」
美織さんが私の前でにっこりと微笑む。
「もう用事は終わったの。ほらさっき車から降りたでしょう? 中に乗ってたのは私の妹と弟で運転してたのは母。今日は久しぶりに会う日だったから」
「え……」
「うちの両親、去年離婚してね。母が小さい妹と弟を連れて家を出たから……私は時々約束して会ってるの」
そうだったのか。
私は校門の前で見た、美織さんの顔を思い出す。車の中に笑顔で手を振ったあと、去っていく車を見送る美織さんの表情。どこか寂しそうな目をしていた。
「ごめんなさい……私、何も知らないで……」
「え、どうして謝るの? 別に隠してるわけじゃないし……あ、でもこんな話、柚くんしか知らないか」
美織さんはそう言っていたずらっぽく笑う。いつもの凛とした表情とは違い、なんだかとてもかわいらしい。
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