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「重森……砂羽ちゃん、だったよね?」
「はい」
美織さんはさっき、私が保健室の先生に名前を名乗ったのを聞いていたんだ。
「砂羽ちゃんは柚くんと仲がいいの?」
私は慌てて首を横に振る。
「い、いえっ! 今年初めて同じクラスになって、初めてしゃべったばかりです」
「そうなんだ」
美織さんがベッドの脇でくすくすと笑っている。
「ねぇ、柚くんってクラスでどんな感じ?」
「あ、えっと……いつも笑ってます。岸本くんとふざけて亜希ちゃんに怒られたり……」
「ああ、圭太くんや亜希ちゃんとは仲いいもんね。そっかぁ、私も柚くんのそういう姿見てみたいなぁ」
美織さんは遠くを見るような瞳で天井を見上げたあと、私に視線を下ろして言う。
「私たちね、幼なじみで小さい頃からずっと一緒なんだけど、年がいっこ違うから同じクラスになれないでしょ? 教室の中に好きな人がいるのって、ちょっと憧れてるの」
あ、今さりげなく「好きな人」って言った。なんだかこっちが恥ずかしくなる。
美織さんも……遠野くんのことが好きなんだ。
「重森さん、お母さんが迎えに来てくれたわよ」
ベッドの脇のカーテンが開いて、お母さんが駆け寄ってくる。
「砂羽! 大丈夫?」
「あ、お母さん、ごめん。いつもの発作みたいだった」
「もう、びっくりしたわよ。学校の外で倒れたって聞いて……」
お母さんがちらりと美織さんのことを見る。
「あのね、お母さん。私こちらの先輩に助けてもらったの。陸上部の河合美織先輩」
「あら、まぁ、そうだったの。この度は娘がお世話になりました」
「いえ、私は何も……」
美織さんはにっこりと微笑んでから、私に言う。
「じゃあね、砂羽ちゃん。お大事に」
「よかったら車で送っていきますよ?」
「いえ、ちょっと部室に寄ってから帰るので。ありがとうございます」
そう言ってお母さんと保健の先生に頭を下げて、美織さんは保健室から出ていった。
「綺麗な子ねぇ……」
美織さんの背中を見送りながら、ため息をつくようにそう言ったあと、お母さんは私に笑いかけた。
「じゃあ帰ろうか、砂羽。先生、お世話になりました」
「お大事にしてくださいね」
ゆっくりとベッドから降り、先生に見送られて部屋を出る。
外はすっかり暗くなっていて、自分の体がまだずしりと重く感じた。
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