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「え、ほんとに行くの? 『スイーツクラブ』」
放課後、亜希ちゃんとしゃべっていたら、岸本くんが強引に加わってきた。今日は陸上部がお休みの日だ。
「ああ、今日部活休みだしさ。行こうぜ、そのスイーツなんとかってとこ」
「えー、どうする? 砂羽」
亜希ちゃんが口をとがらせながら言う。今日の放課後は何をしようかと、今ふたりで相談していたところだった。
「私はべつに行ってもいいよ」
この前は行列に長時間並んだりして疲れちゃったけど、今日は体調もいいし、無理をしなければ大丈夫だと思う。
「な? 重森さんは行くよな? おーい、遠野も行くだろ?」
岸本くんが振り向いて、帰る支度をしている遠野くんに言う。
「え、俺は無理」
「へ? さっき放課後ヒマって言ってたじゃん」
「予定変わった。美織とタピオカの店に行く」
「はー? お前、タピオカうまくないって言ってたじゃねーか! あんなに並ぶ価値ないとかなんとか」
岸本くんが大きな声で騒ぎ出す。だけど遠野くんは平然と言い返す。
「美織が行きたいなら、俺は何時間でも並べる」
「遠野っ、てめぇ、先に約束してた親友より、女を優先するっていうのか?」
「あったりまえじゃん」
悪びれる様子もなく、にこやかに微笑んだ遠野くんがリュックを背負う。岸本くんがその背中に飛びついて、「裏切者ー」なんて言いながら頭をぐしゃぐしゃかき回している。
「やめろ、圭太。俺を美織のとこに行かせろ。美織が待ってるんだ」
「うざっ、美織美織って、お前うざっ!」
「うぜーのはお前だ。離せっ」
遠野くんが岸本くんを振り切って、こっちを向く。私の心臓がどきんとする。
「亜希。圭太のこと頼むわ」
「えー、なんで私がぁ? 勘弁してよ。遠野」
頬を膨らませた亜希ちゃんに笑いかけてから、遠野くんが私に言った。
「じゃあ、また明日。重森さん」
「う、うん……また明日」
幸せそうな顔で教室を出ていく遠野くん。その背中に文句を言っている岸本くん。亜希ちゃんがそんな岸本くんに、あきれた声で言う。
「もー、あきらめなよ、圭太。私がつきあってやるからさ」
岸本くんが振り向いて、しかめっ面で私たちのそばに来る。
「くそっ、遠野のやつ。喉にタピオカつまらせりゃーいいんだ」
「でも遠野って、ほんと美織先輩のこと好きだよね」
亜希ちゃんがそう言って、私の顔を見る。心臓のざわめきが落ち着かないまま、私は亜希ちゃんの前でうなずく。
「うん。そうだね」
「あいつのろけすぎなんだよ。みんなの憧れ、美織先輩と付き合えたからって」
岸本くんは、まだ文句を言っている。
「まぁ、仕方ないか。私たちより遠野のほうが、美織先輩とは長い付き合いなんだからさ」
亜希ちゃんが岸本くんをなだめるように、背中を叩いている。
たしかに。遠野くんと美織さんの間には、私たちが入り込むことのできない、強い絆のようなものが結ばれている気がする。
「もー、こうなったら、今日はやけ食いだ! 食うぞー!」
「圭太、気合入れすぎ」
亜希ちゃんが笑って、私も笑った。結局私たちは三人で『スイーツクラブ』へ出かけた。
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