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「亜希ちゃん、なあに? 大事な話って」  翌日の放課後、「ここでは話せない大事な話がある」と亜希ちゃんに言われ、誰もいない空き教室に来た。  部活の時間はもう始まっていて、亜希ちゃんはすぐに行けるようにとジャージ姿だった。 「うん。えっと、その……さ」  亜希ちゃんは言いにくそうに言葉を濁し、もじもじと体を動かしている。言いたいことはスパっと言い切る亜希ちゃんが、今日はなんだかおかしい。 「どうしたの? 何かあった?」 「あ、いや、別に悪いことじゃないんだ。どっちかというと……良いことかな?」  私が首をかしげると、亜希ちゃんは覚悟を決めたように姿勢をピンっと伸ばして私に言った。 「砂羽っ、私っ……彼氏ができた!」 「えっ」  私は驚いて亜希ちゃんを見る。亜希ちゃんは顔を真っ赤にして、唇をまっすぐ結んでいる。  こんな亜希ちゃんの顔を見るのは初めてで、なんだか私まで恥ずかしくなってしまった。 「か、彼氏って……亜希ちゃん、好きな人いたっけ?」 「いなかった。でも告白されて……付き合うことにした」 「だ、誰と?」  亜希ちゃんはさらに顔を赤くして、そして私から視線をそむけてつぶやいた。 「け、圭太と」 「ええっ、岸本くん、亜希ちゃんのこと好きだったんだ!」  思わず声に出したら、亜希ちゃんが真っ赤な頬を両手で押さえて「それ、言わないでぇ」なんてはにかんでいる。  だけど――私の頭に、昨日駅に向かって歩いて行った亜希ちゃんと岸本くんの姿が浮かんだ。あの時の二人、なんだかすごくいい感じに見えた。  そうか。岸本くんは、亜希ちゃんのことが好きだったんだ。 「告白って……昨日されたの?」  亜希ちゃんがうなずく。 「昨日……砂羽と別れたあと……」  私は亜希ちゃんに笑いかけて言う。 「よかったね! 亜希ちゃん」  亜希ちゃんが恥ずかしそうに顔を上げた。 「亜希ちゃんと岸本くん、私はお似合いだと思うよ?」  亜希ちゃんの顔がまた真っ赤になって、そのあと私に抱きついてきた。 「わーん、ありがと、砂羽! 私、告られたのなんか初めてでさ。よくわからないうちにオッケーしちゃったけど、ほんとにこれでよかったのかなって不安になって……」 「でも亜希ちゃん、岸本くんのこと嫌いじゃないでしょ?」 「うん、まぁ……バカなやつだとは思うけど」  くすっと笑った私の前で、亜希ちゃんも笑う。 「けど一緒にいて楽しいからさ。まぁ付き合ってやってもいいかなって思ったんだ」 「うん。きっとそれでいいんだよ。よかったね」  私の声に、亜希ちゃんが恥ずかしそうにうなずく。  なんだか今日の亜希ちゃんは、すごくかわいいと思った。
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