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「美織? どうしたの? 部活は?」
遠野くんの体が迷いなく動く。私から離れて、美織さんのもとへ駆け寄っていく。私はそんな遠野くんの背中を黙って見送る。
「うん……ちょっと熱っぽくて……今日はお休みしちゃった」
「え、熱あんの? 大丈夫?」
素早く動いた遠野くんの手が、美織さんの額にぴたっと張り付く。
「大丈夫だよ。少し風邪気味なだけ。柚くんは大げさなんだから」
美織さんがくすくす笑って、それから私の顔を見た。
「こんにちは、砂羽ちゃん」
「こんにちは」
私の前に立つ美織さんは、やっぱり少し顔色が悪いように見えた。
「もう体調はいいの?」
そんな美織さんに、私の方が心配されてしまった。学校前で倒れてしまった日のことだ。
「は、はい! 私は大丈夫です。この前はありがとうございました。美織さんこそ……大丈夫ですか?」
「私は平気。家に帰って寝てればすぐに治るよ。砂羽ちゃんの家はどこなの? 一緒に帰ろうか」
「あ、私は……駅とは反対方向なので……」
そう言うと、私は美織さんの前でぺこりと頭を下げた。
「私、先に帰ります。お大事にしてください」
「ありがとう。砂羽ちゃん」
穏やかに微笑む美織さんの声を聞きながら、遠野くんにも言う。
「じゃあ遠野くん、また明日」
すると遠野くんも笑って言ってくれた。
「うん、また明日。重森さん」
私は二人から離れ、一人で正門へ向かう。さっきまで隣にいた遠野くんの気配がなくなって、なんとなく心細い。
一人で帰るのなんて、いつものことなのに。
校門を曲がる時、二人のことが気になって一瞬だけ振り返った。
遠野くんたちはまださっきの場所にいた。美織さんの持っていたバッグを遠野くんが持って、さりげなく自分の肩に掛ける。そして美織さんのことを気遣うように、さっきよりももっとゆっくり歩き出す。
私は静かに背中を向けて、門の外へ歩き出した。
遠野くんと美織さんの笑顔を見るとホッとする。それなのに胸の奥がひんやりと冷たくなるのは、どうしてだろう。
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