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「じゃあね、砂羽」 「うん。がんばってね、亜希ちゃん」  亜希ちゃんが他の女の子たちと一緒に教室を出ていく。  次の授業は体育だ。私が見学なのはいつものことだから、先生もわかっている。一人教室に残って、前もって与えられた課題をやるだけだ。  大きな声で騒ぎながら、男の子たちも廊下へ向かっていく。そんな中、遠野くんは自分の机に突っ伏したままで、岸本くんに背中を揺さぶられている。  今日の遠野くんはどうしたんだろう。  朝からずっと自分の席に座ったままで、岸本くんたちと騒いでいない。いつもだったら絶対、陸上部の子たちとつるんで笑っているのに。  遠野くんが顔を上げないので、岸本くんがあきらめて教室を出ていった。急に周りが静まり返って、ここにいるのは私と遠野くんだけになってしまった。  困ったな……どうしよう。 「遠野くん?」  私はまだ机に顔を伏せたままの遠野くんに近づく。 「次体育だけど……今日も行かないの?」  おそるおそる声をかけてみると、遠野くんがのっそりと顔を上げた。 「だ、大丈夫? 具合でも悪いの?」  遠野くんはぼうっとしている。ずっと顔を伏せていたからか頬が赤く染まり、前髪が不自然にはねていた。 「体育は……サボる」  遠野くんが低い声でぼそっと言った。 「そ、そう」  私は戸惑いながらも、昨日のことを思い出して聞いた。 「美織さんは……もう大丈夫なの?」  すると遠野くんが少し顔をしかめた。 「今日は学校休んでるよ。ただの風邪みたいだけど、まだちょっと熱があって」 「そうなんだ」  うなずいた私の前で、遠野くんが深くため息をつく。  美織さんがお休みだから、遠野くんまで元気がないのかな?  そんなことを思っていたら、遠野くんがまたぼそっとつぶやいた。 「美織に怒られた」 「え……」  遠野くんが自分の髪をくしゃくしゃとかきながら言う。 「あいつさ、母さんはいないし、父さんは仕事だろ? 朝寄ったらつらそうだったから、俺も学校休んで一緒にいるって言ったんだ。そしたら何言ってんの、柚くんは学校行かなきゃダメって追い出されて……」  そこまで言うと、遠野くんは顔を上げて私を見た。 「そこまで拒否らなくてもいいのに。俺、そんなに悪いことした?」 「あ、えっと……」  遠野くんは真剣な表情で私を見ている。私は慎重に言葉を選びながら答えた。 「遠野くんの気持ちもわかるけど……具合が悪いと、一人になりたい時もあるよ。私もあるから」 「でも何かあったら困るじゃん。俺はそれを心配してるのに」  すねた子どもみたいに遠野くんが言うから、私はこらえきれずに微笑んでしまった。 「あ、重森さん、今笑った? もしかして俺のことウザいと思ってる?」 「そんなことないよ。ないけど……ちょっと重いかも」  遠野くんはぽかんとした顔で私を見たあと、「あーっ」と何とも言えない声を上げて頭を抱えた。
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