47人が本棚に入れています
本棚に追加
/94ページ
7
「じゃあね、砂羽」
「うん。がんばってね、亜希ちゃん」
亜希ちゃんが他の女の子たちと一緒に教室を出ていく。
次の授業は体育だ。私が見学なのはいつものことだから、先生もわかっている。一人教室に残って、前もって与えられた課題をやるだけだ。
大きな声で騒ぎながら、男の子たちも廊下へ向かっていく。そんな中、遠野くんは自分の机に突っ伏したままで、岸本くんに背中を揺さぶられている。
今日の遠野くんはどうしたんだろう。
朝からずっと自分の席に座ったままで、岸本くんたちと騒いでいない。いつもだったら絶対、陸上部の子たちとつるんで笑っているのに。
遠野くんが顔を上げないので、岸本くんがあきらめて教室を出ていった。急に周りが静まり返って、ここにいるのは私と遠野くんだけになってしまった。
困ったな……どうしよう。
「遠野くん?」
私はまだ机に顔を伏せたままの遠野くんに近づく。
「次体育だけど……今日も行かないの?」
おそるおそる声をかけてみると、遠野くんがのっそりと顔を上げた。
「だ、大丈夫? 具合でも悪いの?」
遠野くんはぼうっとしている。ずっと顔を伏せていたからか頬が赤く染まり、前髪が不自然にはねていた。
「体育は……サボる」
遠野くんが低い声でぼそっと言った。
「そ、そう」
私は戸惑いながらも、昨日のことを思い出して聞いた。
「美織さんは……もう大丈夫なの?」
すると遠野くんが少し顔をしかめた。
「今日は学校休んでるよ。ただの風邪みたいだけど、まだちょっと熱があって」
「そうなんだ」
うなずいた私の前で、遠野くんが深くため息をつく。
美織さんがお休みだから、遠野くんまで元気がないのかな?
そんなことを思っていたら、遠野くんがまたぼそっとつぶやいた。
「美織に怒られた」
「え……」
遠野くんが自分の髪をくしゃくしゃとかきながら言う。
「あいつさ、母さんはいないし、父さんは仕事だろ? 朝寄ったらつらそうだったから、俺も学校休んで一緒にいるって言ったんだ。そしたら何言ってんの、柚くんは学校行かなきゃダメって追い出されて……」
そこまで言うと、遠野くんは顔を上げて私を見た。
「そこまで拒否らなくてもいいのに。俺、そんなに悪いことした?」
「あ、えっと……」
遠野くんは真剣な表情で私を見ている。私は慎重に言葉を選びながら答えた。
「遠野くんの気持ちもわかるけど……具合が悪いと、一人になりたい時もあるよ。私もあるから」
「でも何かあったら困るじゃん。俺はそれを心配してるのに」
すねた子どもみたいに遠野くんが言うから、私はこらえきれずに微笑んでしまった。
「あ、重森さん、今笑った? もしかして俺のことウザいと思ってる?」
「そんなことないよ。ないけど……ちょっと重いかも」
遠野くんはぽかんとした顔で私を見たあと、「あーっ」と何とも言えない声を上げて頭を抱えた。
最初のコメントを投稿しよう!