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 その日はクラスに集まったあと、体育館で始業式があった。式が始まるまでの間、亜希ちゃんはずっとぶーぶー文句を言っていた。 「もー、最悪だわ。あいつらと一緒なんてさぁ」  私は亜希ちゃんが言う「あいつら」を見る。私たちより前のほうで固まって、ふざけ合う男の子たち。その中には岸本くんや遠野くんもいて、ほとんどが陸上部なのだという。 「そんなに嫌なの? 亜希ちゃん」 「だって部活で会うのに、教室でも一緒とかさぁ。圭太とか特にうるさいし」  たしかに一年の時も、岸本くんは賑やかだった。だからしゃべったことはなくても、すごく印象に残っている。私はもう一度、岸本くんたちをちらりと見る。  ふざけて笑っている岸本くんの隣で、遠野くんも笑っていた。仲いいんだな、あの二人。私は今朝の出来事を思い出す。 「遠野くんって……あの美織先輩と付き合ってるんだ」  ふと口に出したら、亜希ちゃんが私に振り向いて言った。 「そうなんだよー! 信じられないでしょ? 冬休み終わったら、いきなり付き合ってるんだもん。まぁ、あの二人、幼なじみだから最初から仲良かったけど」 「へぇ……幼なじみ……」 「でもそれまではそんな素振り、まったく見せなかったんだよ? なのに今じゃ『美織ー』『柚くーん』なんて堂々と呼び合っちゃって。もー、美織先輩ってば、どうして遠野なんかと……」  亜希ちゃんが大げさに泣きまねをする。 「だけど遠野くんってわりとカッコいいほうじゃない? 私はお似合いだと思うけど」 「ダメダメダメ! 美織先輩はみんなの美織先輩なんだから! 誰のものにもなっちゃいけないの!」  苦笑いする私の耳に、マイクを通した先生の声が響いた。騒いでいた生徒たちが静かになり、亜希ちゃんも口をとがらせながら前を向く。  始業式が始まった。私の視界に遠野くんがいた。退屈そうにスマホをいじっている岸本くんの隣で、ぼんやり遠くを見ている。  どこを見ているんだろう。何気なくその視線を追ったら、そこに美織さんの姿があった。  背筋をピンっと伸ばし、真剣な表情で話を聞いている美織さん。そんな彼女をじっと見つめている遠野くん。その視線はせつないほどまっすぐだ。  ああ、そうか。私は思った。  遠野くんは美織さんが好きなんだ。  私の頼りない心臓が、とくんと小さな音を立てる。  そんなの、付き合っているんだから当たり前だけど。  岸本くんがスマホを見ながら、遠野くんの肩を叩く。遠野くんが岸本くんのスマホを覗き込み、声をこらえるようにして笑っている。  私はそんな遠野くんの横顔を見つめて考える。  人を好きになるって……誰かをまっすぐ好きになるって……どんな気持ちなんだろう。  私はまだ一度も、誰かを好きになったことがなかった。
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