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 放課後は部活があるという亜希ちゃんと昇降口で別れ、私は一人で校舎を出た。午前中で学校が終わった今日、空はまだ明るい。  学校から家までは徒歩で十五分程度。近いという理由だけでこの学校を選んだ。両親も「登下校中に何かあったら大変だから」と、やっぱり近所の学校に通うことを勧めてきた。  病気が良くなったと言っても、まだまだ私は普通の人とは違う。あまり口には出さないけど、今でも両親は私の体を気にかけている。  学校の周りは車の通りも多いが、少し歩くとのどかな住宅街になってくる。やがて木の生い茂る猫神さまの神社にたどり着く。帰りも私は鳥居をくぐり、神さまの前で手を合わせる。 「今日も無事、学校に行けました。ありがとうございます」  小さな声で神さまに語りかけ目を開くと、いつの間にか足元に朝と同じ猫が座っていた。 「ただいま。いい子にしてた?」  その場にしゃがみ込み、三匹の頭を順番に撫でる。すると猫たちは気持ちよさそうに喉を鳴らしたり、あくびをしたりしている。 「あなたたちは、いつものんきでいいね」  頭を撫でながら、自分の膝に視線を落とす。今朝、美織さんにもらった絆創膏が貼ってある。  今頃あの先輩も、亜希ちゃんたちと一緒にグラウンドを走っているのかな。彼女が風を切って走ったら、きっとカッコいいだろうな。  小さい頃からずっと激しい運動を止められている私は、運動部はもちろん入れず、体育の授業もいつも見学だ。だから普通に走れる人が少しうらやましい。  特別な能力は望まない。ただ広いグラウンドを思いっきり走ったら、きっと気持ちいいんだろうな、なんて時々考える。  三匹の猫が「にゃあ」と鳴いた。私は猫たちに微笑みかけてから、「じゃあ、また明日ね」と立ち上がる。  境内を歩き、鳥居をくぐった。その時私の背中で、ざわっと風の音がした。  立ち止まって振り返る。けれどそこにはもう、あの猫たちの姿も見えなくなっていた。
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