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私たち二年二組の教室は、校門から一番遠い校舎の二階にある。午前の授業が終わりお弁当を食べ終えると、教室内は一気に騒がしくなった。特に今日は朝から雨が降り続いているせいで、いつもは外へ出ていく男の子たちも、教室で暇を持て余しているようだ。
「今日部活休みだって」
自分の席で本を読んでいた私のところへ、亜希ちゃんがやってきて言った。
「砂羽、今日ヒマ? 放課後どっか行く?」
こんなふうに部活が休みになると、亜希ちゃんは私を誘ってくる。私も陸上部が休みの日しか亜希ちゃんと遊ぶことができないから、誘われるのは嬉しい。
私は部活をやっていないし、家に帰ってもたいした趣味もないし。
「おーい、亜希! 今日ヒマ?」
教室中に響く大きな声で、岸本くんが声をかけてきた。一緒にいるのは遠野くんだ。私たちの席に近づいてくる。
「俺たちタピオカ食いに行くんだけど、お前も行かねぇ?」
「は? タピオカ食うって……ぷっ、なにそれ」
亜希ちゃんが噴き出すように笑っている。
「いいだろ。駅前のタピオカ屋。いっつも行列ができてて気になってたんだ。島田たちも行くから、みんなで行こうぜ」
岸本くんがそう言って、ちょっと離れた席にいる陸上部の男子二人に親指をくいっと向けた。
「なんで私があんたたちに付き合わなきゃなんないのよ」
「だって並んでるの女ばっかだし。男だけで行くの恥ずかしいじゃん。あ、重森さんも行こうよ」
「えっ」
岸本くんに言われて驚いた。まさか私が誘われるとは思っていなかったから。
「わ、私は……陸上部じゃないし……」
「そんなの気にするなよ。遠野も行くし」
「え……」
私は視線を遠野くんに向けた。遠野くんは岸本くんの隣でにっと笑う。
「俺も陸上部じゃないよ」
「えっ……私、遠野くんも陸上部だと……」
だっていつも岸本くんたちと一緒にいるから……てっきり遠野くんも陸上部なんだと思い込んでいた。
「俺は元陸上部」
「そ。今は帰宅部な?」
岸本くんも笑って、遠野くんの肩をぽんぽんっと叩く。
「じゃ、放課後。よろしく!」
「ちょっと、圭太! 私たちまだ行くとは言ってないよ!」
「タピオカ食うの楽しみー」
「あれ、食うっていうのか? ミルクティーだろ? 飲むんだよ」
「タピオカは食いもんだろ? 飲み物じゃねぇじゃん」
岸本くんと遠野くんがごちゃごちゃ言いながら去っていく。亜希ちゃんは立ち上がったままため息をつき、私に振り向いた。
「どうする? 砂羽、行く?」
「……亜希ちゃんは?」
「うーん。まぁ、私もちょっとあの店気になってたし」
「私も気になってた!」
亜希ちゃんと目が合って、どちらともなく笑みが漏れる。
「じゃあ、行ってみる?」
「しょうがない、付き合ってやるか、あいつらに」
だけどよく考えたら、男の子たちと放課後どこかに寄るなんて、私にとっては初めてのことだった。
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