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放課後、亜希ちゃんや岸本くんたちと一緒に校舎を出た。朝から降り続いていた雨はいつの間にか上がっている。私たちは丸めた傘を手に持って、駅前に向かって歩いた。
学校から駅までは、バス通りをまっすぐ進んで十五分程度。先頭に立ち、みんなを笑わせながら歩いているのは岸本くんだ。背中にリュックを背負って、陸上部のジャージを着ている。制服より動きやすいからと、岸本くんは部活のない日でもいつもこの恰好だ。
そんな岸本くんに突っ込みを入れながら、亜希ちゃんが歩いている。同じ陸上部の島田くんと高橋くんが、そんな二人の後ろでげらげら笑う。
私はぼんやりとみんなの背中を見ながら歩いていた。雨上がりの風がそよそよと吹いて、私の肩にかかる髪を揺らす。雲の切れ目から明るい日差しがこぼれて、街を照らした。
「足、大丈夫?」
急に声をかけられて驚いた。隣から遠野くんが、私の顔を覗き込んでくる。
一瞬意味がわからなくて少し間をおき、始業式の日のことかと気がついた。
「ああ、うん。もう平気」
擦りむいた膝は、乾いたかさぶたがまだちょっとだけ残っているけど。
「そっか。よかった。ずっと気になってたんだ」
そう言って遠野くんが笑う。
「ごめんな?」
私は慌てて首を横に振る。
「全然。気にしないで」
私のことなんか、気にしなくていいのに。亜希ちゃんの友だちじゃなかったら、こんなふうに出かけるはずもなかった私のことなんか。
それからなんとなく、遠野くんと並んで歩いた。
私たちの前で賑やかに笑っている岸本くんたち。私も何か遠野くんと話したほうがいいのかな。でもなんて? 今までほとんどしゃべったこともないのに……どうしよう。
ぐるぐると考えを巡らせていた私に、遠野くんの声が聞こえた。
「圭太さ。重森さんのこと邪魔してない? 授業中とかうるさいだろ、あいつ」
私は少しホッとする。よかった。遠野くんから話しかけてくれて。
「ううん。大丈夫」
岸本くんは私の後ろの席だ。たしかに岸本くんの声は大きくて、時々他の男の子とおしゃべりして先生に注意されている。
「岸本くんって、いっつも元気でいいよね。岸本くんがいるだけで、周りが華やかに明るくなるもの」
私は岸本くんみたいに誰とでも仲良く話せないから、本当にうらやましいんだ。
遠野くんは私のことをちらっと見たあと、岸本くんに視線を向けて、「そうだな」って笑った。
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